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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)5930号 判決 1984年11月28日

原告(反訴被告、以下単に原告という) 安田信託銀行株式会社

右代表者代表取締役 山口吉雄

右訴訟代理人弁護士 工藤舜達

被告(反訴原告、以下単に被告という) 山田正徳

右訴訟代理人弁護士 奥野善彦

同 下河辺和彦

同 高中正彦

同 黒田泰行

同 野村茂樹

主文

1  被告は原告に対し金六五五万円及びこれに対する昭和五八年一二月八日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  原告は被告に対し金二七〇万円及びこれに対する昭和五八年一二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告のその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用は本訴反訴を通じこれを四分し、その一を原告、その余を被告の負担とする。

6  この判決は1項及び3項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は原告に対し金九九六万円及びこれに対する昭和五八年一二月八日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告の請求を棄却する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告

1  原告は被告に対し金一三五〇万円及びこれに対する昭和五八年一二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

4  仮執行宣言

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 原告は銀行業務の外宅地建物取引業者として、宅地建物の売買または交換の媒介または代理を業としている。

2 原告は被告から昭和五八年一〇月三日別紙物件目録記載の土地、建物について売却の媒介依頼を受け、被告との間で次の内容の専任媒介契約を締結した。

有効期間 右媒介契約締結後三か月

約定報酬額 成約価額掛ける三パーセント足す六万円

違約金約定 被告が右媒介契約の有効期間内に原告以外の宅地建物取引業者に右土地建物の売買の媒介を依頼し、これによって売買の契約を成立させたときは、原告は被告に対して約定報酬額に相当する金額を違約金として請求できる。

3 原告は右専任媒介契約に基づき右土地建物の売却について努力し、買主として訴外株式会社岩屋を決定して被告に紹介し、売買代金は金三億一〇〇〇万円、手附金は金三一〇〇万円として契約と同時に支払い、残金二億七九〇〇万円は昭和五九年九月三〇日右土地、建物の登記並びに引渡しと引き換えに支払う同意を得て、右内容の土地、建物売買契約書に昭和五八年一一月四日関係当事者署名捺印する段取りまで設定した。

4 被告は、昭和五八年一一月一日、宅地建物取引業者である訴外東洋不動産株式会社と右土地建物について二重に専任媒介契約を締結し、同会社を立会人として同日訴外進興ビルディング株式会社に対し金三億三〇〇〇万円にて右土地建物を売却した。

5 被告の右行為は原告と被告間の前記第二項の専任媒介契約に違背し、その違約金約定に基づき、被告の訴外進興ビルディング株式会社に対する右売却代金三億三〇〇〇万円の成約価額掛ける三パーセント足す金六万円の約定報酬額に相当する金九九六万円を違約金として被告は原告に対し即時支払う義務がある。

そこで、原告は被告に対し昭和五八年一二月七日到達の内容証明郵便により右支払いを催告したが被告はその支払いをしない。

6 よって、原告は被告に対し右違約金九九六万円およびこれに対し右内容証明郵便による催告の翌日である昭和五八年一二月八日より支払済みに至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は認める。

3 同3の事実は否認する。

4 同4の事実は認める。

5 同5のうち、原告から昭和五八年一二月七日到達の内容証明郵便で違約金請求の催告を受けたことは認めるが、その余は争う。

三  抗弁

1 被告は原告との専任媒介契約約款第一三条の趣旨に則り、その所定の手続をとるとともに、同第一二条の趣旨に基づき原告と協議の上然るべき金員を支払う用意をして、昭和五八年一一月二日原告本店に赴いたところ、被告は原告本店の部屋に九時間余軟禁され、原告職員を含む四名の者に威迫難詰され、不法に多額な違約金・礼金を強要され、同年一一月四日、買主と称する訴外株式会社岩屋に対し違約金として金一〇〇〇万円、訴外三晶不動産株式会社に対し礼金として金二五〇万円、訴外栄和土地建物株式会社に対し礼金として金一〇〇万円の支払を余儀なくされた。

原告は被告に対し、前記専任媒介契約に基づき、不動産取引業者として本件不動産の売却につき、成約に至る買主を探す義務、売主が紹介にかかる買主候補者を諒とするときは滞りなく売買契約を締結させ、これを履践させる義務、成約に至らないときはその後始末をする義務、仮に二重の専任媒介契約を売主においてなしたときは、売主より違約金の支払を受けて、自らの下請としてこれまで働いた中間の業者の後始末をする義務等諸般の義務がある。

原告は不動産取引業者として被告のなした二重専任媒介契約に対し、事態を冷静に受けとめ、これを穏便に収拾する義務があるのにこれを怠り、不動産の取引については全くの素人である被告に対し、未だ成約に至らない買主と称する第三者と、あまつさえ原告の下請又はパートナーと思われる不動産取引業者とにまで合計金一三五〇万円の支払を余儀なくされ、過酷な負担を強いたもので、原告のかかる行為は、不動産取引業者としては許し難い公序良俗違反の背信行為であり、被告に対し専任媒介契約の違反を理由に違約金の請求をすることは信義則に反し、権利の濫用であって許されない。また、被告の前記第三者に対する支払は信義則上原告に対する支払と同視され、更にその支払額が原告に対する違約金額を大幅に上回っていることからも(専任媒介契約約款第一四条参照)、原告の請求は許されない。

2 かりにそうでないとしても、原告従業員である佐藤、後藤と被告とは昭和五八年一一月二日、本件専任媒介契約に基づく違約金額を金六五五万円とする旨合意した。更に、佐藤は被告に対し、同月七日、奥野法律事務所において違約金額として金六〇〇万円の支払を求め、その余は放棄した。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実のうち、被告が昭和五八年一一月二日原告本店に赴いたこと、同日被告が訴外株式会社岩屋に対し違約金として金一〇〇〇万円、訴外三晶不動産株式会社に対し礼金として金二五〇万円、同栄和土地建物株式会社に対し礼金として金一〇〇万円を支払う旨約し、同月四日これを支払ったこと、被告が昭和五八年一一月二日原告に対し違約金として金六五五万円の支払を約束したことは認めるが、その余は争う。

(反訴)

一  請求原因

1 本訴請求原因2のとおり

被告は原告に対し、右専任媒介契約締結に際し、本件土地建物の引渡は昭和五九年九月末日が目途となること、媒介価額は三億一〇〇〇万円とする旨を告げたところ、原告は応諾し、約定報酬額を九三六万円(三億一〇〇〇万円掛ける三パーセント足す六万円)とすることを合意した。

2 被告は、昭和五八年一〇月三一日、訴外進興ビルディング株式会社から本件土地建物を代金三億三〇〇〇万円で買受ける旨の申込を受けてこれを承諾し、翌一一月一日、訴外進興との間で本件土地建物の売買契約書を作成し、訴外進興の紹介にかかる訴外東洋不動産株式会社との間で専任媒介契約を締結したが、被告は、その時まで原告からその媒介にかかる買主候補者の氏名を告げられていなかった。

3 被告は、昭和五八年一一月二日午前一〇時頃、原告本店近くの喫茶店で原告従業員で宅地建物取引主任者の資格を有し本件不動産取引の直接担当者であった佐藤正男に対し、本件土地建物を訴外進興に売却したことを説明し、原告に専任媒介契約に基づく違約金の支払を申出たところ、佐藤は「売買は諾成契約だから原告に対する支払だけではすまない」旨を申し向け、更に、被告を原告本店二階の一室に招き入れ、原告不動産部住宅仲介課長後藤信二とともに右同旨を繰り返し、初めて被告に対し原告媒介にかかる買主候補者として訴外岩屋株式会社の名前を告げ、両名は、被告と訴外岩屋間に売買契約が成立したことを前提としてその事態の収拾を迫った。その後、原告従業員らが呼び寄せた訴外三晶不動産株式会社代表取締役小野正義、栄和土地建物株式会社代表取締役野島栄一も本室に加わり、「訴外岩屋から仮処分を受けるかもしれない」と申し向け、被告をしてもしそうなれば訴外進興に対する売買に重大な支障をきたすことになりかねないと思い込ませた。こうして被告は、昼食も抜きにした九時間余にわたる軟禁状態のもとでのやり取りの結果、訴外進興に対する売買を解約し訴外岩屋に売却するか、それとも原告に対する六五五万円の違約金の外、違約金名下で訴外岩屋に一〇〇〇万円、礼金名下で訴外三晶に対し三〇〇万円、訴外栄和に対し一〇〇万円の各支払約束を余儀なくさせられ、その旨原告事務用箋を用いて作成した解決案に署名押印させられ、同月四日、訴外岩屋に金一〇〇〇万円、訴外三晶に金二五〇万円、訴外栄和に金一〇〇万円を支払った。

4 原告は、専任媒介契約上の信義に従い、誠実に業務を行う義務、宅建業者としての善管注意義務を負い、被告に対し約定違約金九三六万円の範囲内で関係者に対し解決を図るべき義務があるのに、被告をして原告以外の関係者に対し金一三五〇万円もの不当な支払をさせ、しかも未だ成約の段階に至っていない売買契約を諾成契約だからと強弁し、これが支払を余儀なくさせたのであって、原告従業員佐藤、後藤には故意・過失がある。

5 よって、被告は原告に対し、第一次的に債務不履行責任に基づき、第二次的に不法行為責任に基づき、損害金一三五〇万円及びこれに対する債務不履行ないし不法行為後である昭和五八年一二月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2のうち、一一月一日被告が訴外東洋不動産株式会社との間で専任媒介契約を締結し、それに基づき訴外進興との間で本件土地建物の売買契約書を作成したことは認めるが、その余は争う。原告は被告に対し、昭和五八年一〇月二七日、二九日、三一日に買主は訴外株式会社岩屋である旨を告げて被告の了解を得ている。

3 同3のうち、被告が昭和五八年一一月二日原告に対し違約金を支払う旨申出たこと、原告本店二階の応接間での話合に訴外三晶の小野及び訴外栄和の野島が参加したこと、昼食抜きで話合がなされたこと、原告事務用箋を用いて解決案が作成され被告が署名捺印したこと、被告が一一月四日訴外岩屋に金一〇〇〇万円、訴外三晶に金二五〇万円、訴外栄和に金一〇〇万円を支払ったことは認めるが、その余は否認する。佐藤が被告に申し向けたのは、既に被告は訴外岩屋に売却すると約束したのであるから、被告が約束したとおり訴外岩屋に売却して下さいということであって、原告に対する支払だけではすまないとは言っていない。原告以外にも支払うと言い出したのは被告である。

佐藤及び後藤は被告が買主候補者である訴外岩屋に売却しますと約束したのであるから訴外岩屋に売却して下さいと申し向けたのであって、被告と訴外岩屋間に売買契約が成立したと言ったことはない。被告から訴外岩屋との間で売買契約が成立していると判定されるかと問われたので、それは高次元の問題であるから法律の専門家でないと分らないと答え、被告から叱られている位である。訴外三晶の小野及び訴外栄和の野島は原告従業員が呼び寄せたものではなく、小野及び野島が訴外岩屋との売買が解消されると知り、かけつけてきたのである。被告から、訴外三晶の小野及び訴外栄和の野島との話合は、自力で行い、原告の力は借りないというので、佐藤及び後藤はその話合には関与していない。ただ、話合の場が原告本店応接間で行われたので佐藤が立会ったこともあるが席を外した時もある。食事抜きは被告の意向によるものであり、何とか話をつけようと頑張ったのは被告であって、被告を軟禁したり引きとめた者はいない。

4 同4は争う。

第三証拠《省略》

理由

(本訴について)

一  請求原因1(原告の業務)、2(専任媒介契約の締結)、4(二重専任媒介契約の締結)及び被告が昭和五八年一二月七日到達の内容証明郵便で原告から違約金請求の催告を受けたことはいずれも当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、原告は専任媒介契約に基づき本件土地建物売却の媒介について努力し、訴外三晶不動産株式会社を通じて買主候補者として訴外株式会社岩屋を決定して被告に紹介し、売却代金は金三億一〇〇〇万円、手附金は金三一〇〇万円として契約と同時に支払い、残金二億七九〇〇万円は昭和五九年九月三〇日本件土地建物の登記並びに引渡しと引換えに支払う同意を得て、右内容の土地建物売買契約書に昭和五八年一一月四日関係当事者が署名捺印する段取りをしたことが認められ(る。)《証拠判断省略》

二  そこで、抗弁について検討する。

被告が昭和五八年一一月二日原告本店に赴いたこと、同日被告が訴外株式会社岩屋に対し違約金として金一〇〇〇万円、訴外三晶不動産株式会社に対し礼金として金二五〇万円、同栄和土地建物株式会社に対し礼金として金一〇〇万円を支払う旨約し、同月四日これを支払ったこと、被告が同月二日原告に対し違約金として金六五五万円の支払を約束したことはいずれも当事者間に争いがなく、後記認定の事実によれば、被告は昭和五八年一一月二日専任媒介契約約款第一二条の趣旨に基づき原告と協議の上、然るべき違約金を支払う用意をして原告本店に赴いたところ、原告従業員佐藤正男から売買は諾成契約であるから原告に対する違約金ではすまない旨を告げられて動転し、原告本店二階の応接間において九時間にわたり原告職員を含む四名の者と交渉し、その結果、訴外株式会社岩屋に金一〇〇〇万円の違約金、訴外三晶不動産株式会社に対し金二五〇万円、訴外栄和土地建物株式会社に対し金一〇〇万円の礼金の支払を余儀なくされたことが認められる。被告はかかる原告の行為にてらし、専任媒介契約違反に基づく違約金の請求は信義則に反し権利の濫用として許されないと主張するが、原告の債務不履行責任は別途追求できるのであって、被告の専任媒介契約違反に基づく責任を原告が追求するのを信義則違反ないし権利濫用ということはできない。また、被告は第三者への支払が信義則上原告に対する支払と同視されると主張するが、これを採用すべき理由は見当らない。従って、抗弁1は理由がない。

抗弁2のうち、被告が昭和五八年一一月二日原告に対し違約金として金六五五万円の支払を約束したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、佐藤が昭和五八年一一月七日奥野法律事務所において被告に対し金六〇〇万円の請求をしたことは認められるが、その余を放棄したと認めるに足る証拠はない。右事実によれば原告の被告に対する違約金は金六五五万円と認められるから、被告の抗弁2は理由がある。

三  以上によれば被告は原告に対し違約金として金六五五万円及びこれに対する催告の翌日である昭和五八年一二月八日から支払ずみまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべく、原告の請求は右の限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却すべきである。

(反訴について)

一  請求原因1(専任媒介契約の締結)及び被告が昭和五八年一一月一日訴外東洋不動産株式会社との間で専任媒介契約を締結し、それに基づき訴外進興との間で本件土地建物の売買契約書を作成したこと、被告が昭和五八年一一月二日原告に対し違約金を支払う旨申出たこと、原告本店二階の応接間での話合に訴外三晶の小野及び訴外栄和の野島が参加したこと、昼食抜きで話合がなされたこと、原告事務用箋を用いて解決案が作成され被告が署名捺印したこと、被告が一一月四日訴外岩屋に金一〇〇〇万円、訴外三晶に金二五〇万円、訴外栄和に金一〇〇万円を支払ったことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  右争いのない事実に《証拠省略》によれば次の事実が認められる。

1  被告は、昭和五八年一〇月三一日、訴外進興ビルディング株式会社からの本件土地建物の買受申込みを承諾した。それは訴外進興の社長である原進が隣地の住人であり、訴外進興の預金状況を聞き代金支払が確実であり、売却価額三億三〇〇〇万円は原告との媒介価額三億一〇〇〇万円より二〇〇〇万円多額で違約金を支払っても経済的メリットがあるためであった。被告は、訴外進興に対し信用のある宅建業者の紹介を依頼し、一一月一日訴外進興との間で本件土地建物の売買契約書を作成し、訴外進興の紹介にかかる訴外東洋不動産株式会社との間で専任媒介契約を締結し、右売買の立会人とした。その当時まで被告は原告から買主候補者の名前を告げられていなかった。

2  被告は、専任媒介契約第一二条に基づく違約金を支払う意思で一一月二日原告本店に赴いた。同日午前九時頃、原告本店近くの喫茶店で被告は佐藤に対し、本件土地建物を訴外進興に売却したことを話し、違約金の支払を申し出たところ、佐藤は売買は諾成契約だから原告に対する支払だけではすまない旨を示唆し、被告は予期していなかったことなので動転した。佐藤は、更に被告を原告本店二階の応接間に招き入れ、後藤課長と二人で被告と訴外岩屋間の売買契約について事態の収拾に当った。その間被告の意向で昼食抜きで話合を続けた。当日午後二時頃後藤、佐藤は中座し、顧問弁護士に事態収拾について相談に赴いたが、その間に訴外三晶の小野、訴外栄和の野島が右話合に参加し、「訴外岩屋から仮処分を受けるかもしれない」等と申し向け、被告をして訴外進興に対する売買に重大な支障をきたすおそれがあると思わせ、訴外進興に対する売買を解約するか、訴外岩屋に違約金を支払うことにするかの決断に迫られ、遂に第一案(訴外岩屋が購入する場合)売却代金三億四三〇〇万円、第二案(訴外進興が購入する場合)買主側に一四〇〇万円、原告に六五五万円を支払う旨の解決案に署名捺印した(乙第六号証)。当日の話合は午後九時頃までに及ぶものであったが、原告従業員は専門業者として被告に対し健全な不動産取引について何らの助言指導をしなかった。

3  被告は、第二案によることとし、早く支払わないと訴外進興への売却を妨害されるかもしれず、話がむし返されて支払金額が増額されることをおそれ、休日である翌三日をはさんだ四日に訴外岩屋に金一〇〇〇万円、訴外三晶に金二五〇万円、訴外栄和に金一〇〇万円を支払ったが、訴外岩屋からは一一月四日売渡承諾書(昭和五八年一〇月二五日付)違約協約書及び承諾書を書かされた。

被告は一一月四日原告に対して一一月七日違約金六五五万円を支払う旨の念書を作成した。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

以上の事実によれば、原告は不動産業者として売買契約の成否もしくはその判断につき誤導するような言動をとってはならず、また、原告と買主側業者が同席するような場合には、被告に対し健全な不動産取引につき専門業者として助言、指導すべき注意義務があるのにこれを怠り、売買は諾成契約であるとして被告をして買主候補者に対する違約金支払を余儀ないものと観念させ、小野、野島と同席するようになっても全く助言、指導を行わず、乙第六号証を作成し、被告に対し合計金一三五〇万円の不当な支払を余儀なくさせたのであるから、専任媒介契約の不動産取引業者として善管注意義務違反があることは明らかである。もっとも、被告においても原告に対する違約金を減額させ、その反面原告に対し助言指導を求めずに自身で解決するために行動した軽率な点があることも否定できず、被告の過失も十分にしん酌すべきであり、その割合は五分の四とみるのが相当である。

三  以上によれば被告は原告の債務不履行により合計金一三五〇万円の損害を蒙ったというべきであるが、被告の過失をもしん酌し、その割合は五分の四と認められるから、原告は債務不履行に基づき被告に対し右損害の五分の一に当る金二七〇万円及びこれに対する債務不履行後である昭和五八年一二月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべく、被告の請求は右の限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却すべきである。

(むすび)

以上の次第であるから、本訴、反訴の各一部を認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村重慶一)

<以下省略>

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